宮城県土地家屋調査士会

震災遺構荒浜小学校パンフレットより)

【目的】

東日本大震災の際に、2階まで浸水しながらも津波に耐え、多数の命を救った仙台市立荒浜小学校について、「震災遺構」として建物表題登記を行い、登記記録に反映させることにより、改めて、津波被害の脅威や災害への備えを喚起したい。
また、3次元データ化を行うことにより、登記記録だけでは表現できない物理的な状況を記録し後世に残すとともに、多面的なデータの活用を検討する。

【経緯】

令和3年3月11 日、東日本大震災から10 年を迎えます。年々、震災の記憶が風化していく中で、改めて、津波被害の脅威や災害への備えを喚起するものとして、震災遺構の建物を登記することを考えました。
 調査対象として、仙台市の荒浜小学校が候補に 挙がりました。同校は仙台市沿岸の住宅地にあります。東日本大震災の際には、津波によって周囲の住宅が全て流される中、校舎の2階まで浸水しながらも津波に耐え、児童や教職員、地域住民ら多数の命を救ったことが、市民によく知られています。
現在は、津波の脅威や教訓を後世に伝えるため震災遺構として一般に公開されており、県外からも多数の見学者が訪れています。
また、日調連がライカ社と提携したこともあり、表題登記のための調査測量だけでなく、3次元データも作成して仙台市に寄贈することを検討いたしました。
仙台市へ今回のプロジェクトの趣旨を説明したところ、協力いただけることとなり、休館日を利用して現地計測作業を行い、プロジェクトを進めてきました。

仙台市立荒浜小学校

【目指すもの】

被災地では、震災遺構の保存・解体を巡る議論が各地で起こっています。「震災の記憶を風化させてはいけない」「津波被害の脅威や災害への備えを喚起し、後世に伝えるべき」といった意見があります。一方では、被災した住民にとっては「復興優先」「思い出したくない」という思いが強く解体を望む声があります。
保存が認められたとしても、整備や管理など多額の費用の問題、劣化による倒壊等の恐れ、安全面の問題など、今後に課題が残る実情があります。しかし、今回のように3次元のデータ化を行えば、例え、遺構を解体撤去した後でも、半永久的にその姿が保存可能です。VR映像などへのデータの加工も可能であり、現地に行かなくても校舎内見学の体験を可能としたり、安全上一般公開されていないエリアの疑似的な公開といった利用も期待できます。更には、校舎の維持管理の面でも、修理・復元等の基礎データとしても利用が可能です。今回の3次元データ化は遺構を後世に残すことと被災地の復興を進めることの可能性を広げられるものだと考えます。

【事業経過と結果】

3次元データ化については、現地での計測作業は終了しています。基本的な 3 次元データの作成はほぼ完了しており、仙台市への寄贈用のデータについて整理・編集を行っています。 令和 3年1月中に、仙台市長へ3次元データを寄贈する予定です。登記手続きに関しては、取得した3次元データから 2 次元データを生成・抽出したところです。詳細な設計図面が入手できていない状況ではありますが、これら取得したデータを活用してこれから建物形状の計測を行うところです。

【登記制度について創造されたもの】

震災遺構に指定され、恒久的に保存される仙台市立荒浜小学校を3D測量による3次元データ化によって正確な史実として次世代に確実に継承していくことができたということは、現行の登記制度の枠を超えたものを後世に残せたと考えています。震災遺構という公的な建物であったため、これからの土地家屋調査士としての業務の可能性を拡げたと感じております。
仙台市役所の建て替え工事に伴い、現存の市役所を 3D測量による3次元データ化するアプローチがあったこともその証拠だと思います。
このことから、今回の宮城会が取り組んだプロジェクトは土地家屋調査士としての存在意義を創造したことに他ならないと考えます。

【創造されたものを活かすには】

今回のプロジェクトを通して、3D測量による3次元データ化が大変有用だと感じましたが、そのデータ取得やデータの加工には多くの時間とお金が必要だということもまた実感しました。
公的な建物を3D 測量により3次元データ化するには、「税金で」、となると思います。
3次元データ化の有用性について国民が認知し、納得できるような活動が今後必要になってくると考えます。